研究内容Research

 Blood. 2013 Apr 18;121(16):3267-73. doi: 10.1182/blood-2012-07-443713.

【ポイント】

  • I型インターフェロンによる前処置は、造血幹細胞(HSC)の生着効率を高める。
  • I型インターフェロンを用いた移植前処置は、スライ症候群の治療に応用可能である。

【Points】

  • Type I IFN preconditioning enhances HSC engraftment efficiency.
  • IFN-based pre-transplant conditioning is applicable to the treatment of Sly syndrome.

【研究の背景】

同種造血幹細胞移植(HSCT)は、悪性造血系疾患、鎌状赤血球貧血、サラセミア、およびドナー細胞が欠損酵素の恒久的な供給源として機能する一部の先天性代謝異常症を含む、一部の非悪性血液疾患を効果的に根絶することができる。移植前の前処置として、高線量全身照射(TBI)またはDNAアルキル化剤(ブスルファン)を主成分とするレジメが一般的に用いられている。このような前処置は、基礎疾患を根絶し、免疫系を抑制し、移植されたドナー造血幹細胞(HSC)の生着率を高めるために必要であるが、 一方で、肺炎、白内障、閉塞性細気管支炎、肝静脈閉塞症、出血性膀胱炎、二次性悪性腫瘍などの重篤な遅発性毒性を引き起こすリスクもある。また、造血系を、正常な同系または遺伝子改変された自家造血幹細胞(HSC)で部分的に置換することは、いくつかの先天性造血疾患の治療に十分である。したがって、 放射線やアルキル化剤を使用しないプレコンディショニングレジメの提案は、血液および免疫系のいくつかの単一遺伝子疾患の治療における自家HSC遺伝子治療の適用拡大につながる可能性がある。HSCの静止状態を適切に制御することは、その生涯にわたる機能を維持するために極めて重要であると考えられている。

我々はこれまで、I型IFNによって、STAT1およびPKB/Akt依存的なメカニズムを介して、生体内でHSCが効率的に活性化され、その結果、I型IFNでプライミングされたHSCは、5-フルオロウラシル(5-FU)によって生体内から効率的に除去されること、また、I型IFNシグナル伝達の転写抑制因子であるIRF2は、HSCの幹細胞性を正常に維持するために不可欠なことを報告してきた(Nat Med 2009)。こうした背景に基づき、我々は、先天性蓄積症であるSly syndromeのマウスモデルに対してI型IFNを用いた移植前処置を行い、同疾患の治療に成功した。

【研究成果の概要】

造血幹細胞(HSC)を用いた遺伝子治療は、単一原因性血液疾患や蓄積症に対して根治の可能性を秘めた治療法であるが、DNA損傷や毒性を最小限に抑える骨髄(BM)移植前の前処置レジメを確立することが必要である。本研究では、放射線照射やDNAアルキル化剤を伴わないI型IFNによる移植前処置が、野生型(WT)マウスにおいてHSCの生着効率を著しく向上させることを示した。HSCレシーピエントにおけるI 型IFNシグナル活性化の重要性は、I型 IFNシグナル転写抑制因子であるIRF2を欠損したマウスでも実証された。WTマウスおよびIrf2欠損マウスのいずれにおいても、I 型IFNシグナルの活性化は、HSCの5-FUまたは低線量放射線照射に対する感受性を大幅に増強した。重要なことに、IFNを用いた骨髄移植前処置は、β-グルクロニダーゼ欠損を伴う先天性蓄積症であるSly症候群の治療にも適用可能であり、これによりHSCレベルでの酵素発現が回復し、それに伴い病理学的グリコサミノグリカンの蓄積が減少した。我々の知見は、I型IFNを用いた骨髄移植前処置が、一部の先天性疾患に対する新規の治療法となり得ることを示唆している。

【研究成果の意義】

遺伝子補正を施した自家造血幹細胞(HSC)移植による先天性代謝異常症の治療法が、マウスモデルを用いて検証されている。I型ムコ多糖症(MPS)は最も一般的なリソソーム蓄積症の一つである。これはα-L-イドゥロニダーゼ(IDUA)活性の欠損に因り多くの臓器にグルコサミノグリカンが蓄積する。I型MPSモデルであるIdua欠損マウスは、レンチウイルスベクターを用いて遺伝子補正された自家造血幹細胞(HSC)で部分的に置換するだけで完全に治癒することが報告されている。一方、悪性血液疾患の場合には、移植されたドナー造血幹細胞およびその子孫によって造血系を完全に置換する必要がある。我々のI型IFNによる移植前処置は、部分的置換によって完全治癒が期待できる血液疾患、例えば、遺伝性免疫不全症、β-サラセミア/鎌状赤血球症、血友病、慢性肉芽腫症、ファンコニ貧血などに応用できる可能性がある。