Cell Rep. 2017 Aug 1;20(5):1050-1060. doi: 10.1016/j.celrep.2017.07.019.
オートファジーは、細胞内の変性タンパク質やダメージを受けた小器官を分解する機構であり、生体の恒常性維持に重要です。同機構の異常が様々な疾患発症の原因になることも数多く報告されています。近年、増加傾向にある炎症性腸疾患(IBD)の発症にもオートファジーが関与し、ヒト及びマウスにおけるオートファジー関連遺伝子Atg16L1の変異が、パネート細胞からの抗菌ペプチド産生低下等を介してクローン病発症に関与することが報告されています。
腸上皮幹細胞(ISC)は腸上皮の源となる細胞です。ISCは絨毛陰窩にパネート細胞と隣り合わせに存在し、高い自己複製能と上皮細胞への分化能をもち、2-5日ですべての腸上皮細胞を新しいものに入れ替えます。一方、腸上皮再生の起点となるISCにおけるオートファジーの役割は、これまで不明でした。
研究グループは、ISCにおけるオートファジーの役割を検討しました。最初に、ISCで常時オートファジー機構が活性化していることを複数の指標(LC3の発現、p62の低下等)で明らかにしました。次に、腸上皮細胞のみでオートファジー関連遺伝Atg5を欠損するマウス(Atg5ΔIECマウス)を作製して解析したところ、Atg5ΔIECマウスのISC数はコントロールマウスに比較して著減しており、放射線照射後の腸上皮再生に障害があることを見出しました。同マウスの腸上皮再生不全は、5-FU誘導性腸炎でも観察されました。また、腸上皮のうちパネート細胞のみオートファジー機構が正常に機能するマウスでも、ISC数の低下並びに放射線照射による再生不全が観察されたことから、ISC自身のオートファジー機構の破綻が、パネート細胞非依存性に、腸上皮再生不全をもたらしていることが示唆されました。さらに詳細なメカニズムを追求した結果、オートファジー機構の欠損によるROSの蓄積がISC数減少の一因と考えられました。これらの知見から、オートファジーがISCの維持と腸上皮損傷後の再生に重要な役割を果たしていることが明らかになりました(図)。
これまでの腸におけるオートファジー研究は、主としてパネート細胞などの機能に関するもので、ISCに着目した研究はありませんでした。研究グループは、腸上皮再生の起点となるISCの恒常性維持と腸上皮損傷後の再生に、ISC自身のオートファジーが重要な役割を果たしていることを初めて明らかにしました。本研究成果は、ISCにおけるオートファジー機構の重要性を示すものであり、同機構を最適化することによって腸上皮損傷を伴う疾患の治療法開発に繋がることが期待されます。