Nat Med. 2009 Jun;15(6):696-700. doi: 10.1038/nm.1973.
造血幹細胞(hematopoietic stem cell, HSC)は、赤血球や白血球を含むすべての血液細胞を作り出す源の細胞であり、骨髄ニッチと呼ばれる場所で、ゆるやかに自己増殖を繰り返しながら存在しています(図1)。一方、慢性骨髄性白血病では、HSCと性質のよく似た“がん幹細胞”が白血病細胞を作り出す源の細胞であることが知られています。従って、人為的にHSCの運命をコントロールすることが可能になれば、慢性骨髄性白血病治療さらには副作用の少ない骨髄移植法の開発に結びつく可能性が高く、非常に重要な研究課題でした。
I型インターフェロンは、ウィルス感染の際、宿主に抵抗性を付与する重要なサイトカインとして知られています。本研究では、これまで知られていない重要なI型インターフェロンの機能を明らかにしました。即ち、一過性のI型インターフェロンの刺激がHSCの増殖を、持続的なI型インターフェロンの刺激がHSCの減少を誘導することです。I型インターフェロンシグナルを抑制する転写因子IRF2を欠損するマウスでは、持続的なI型インターフェロンシグナルに起因するHSCの減少が観察されました。現在の抗がん剤治療では、増殖能力の高い白血病細胞のみが標的となります。したがって、本研究成果は、I型インターフェロンを投与することで、一過性にがん幹細胞の増殖を盛んにし、抗がん剤の効果を高める新治療法の有用性を示すものです。また、このようなI型インターフェロン(と抗がん剤の併用効果)の効果は、放射線照射を軽減・回避可能な骨髄移植法の開発に直結するものです。
図1.HSCは生涯に渡り造血を維持する
HSCは自己複製能と多分化能により造血を担う。
図2.HSCへのI型IFNの作用
I型IFNの一過性の作用はHSCの増殖を、慢性的な刺激は、自己複製能の低下によるHSC数の減少をもたらす。