Sci Adv. 2025 Jun 6; 11(23):eadt4909. doi: 10.1126/sciadv.adt4909. Epub 2025 Jun 6.
DCは、体内で最も強力な抗原提示細胞(用語8)であり、抗原に出会ったことのないT細胞(ナイーブT細胞)を活性化するために不可欠な存在です。DCによって活性化されたT細胞は、実際に免疫応答を担うキラーT細胞(用語9)やヘルパーT細胞(用語10)へと分化します。
DCは、病原体由来の抗原だけでなく、自分の細胞に由来する自己抗原(用語11)や、がん細胞に由来するがん抗原なども提示するため、さまざまな疾患において功罪両面の働きを持ちます。
DCは、抗原提示能に優れた従来型DC(cDC、用語12)と、核酸を認識して大量のI型インターフェロンを産生する形質細胞様DC(pDC、用語13)に分類されます。しかし、pDCには抗原提示能がない(あるいは極めて低い)ことから、国際免疫学連合のDC・単球委員会(樗木が委員)は、pDCはDCではなく自然リンパ球に分類すべきであると提唱しています(以下、cDCをDCと記載)(参考文献1)。
DCを含む全ての血液細胞は、造血幹細胞(HSC、用語14)から分化・供給されますが、その分化経路(起源)の違いにより、骨髄系またはリンパ球系に分類されます。骨髄系には顆粒球、単球・マクロファージ、赤血球などが含まれ、リンパ球系には T細胞、B細胞、NK細胞などが含まれます。これまで、DCは骨髄系に属すると考えられてきましたが、最近、ごく一部のDCがリンパ球系に由来することが示唆されていました。ただし、リンパ球系DCの分布や機能、分化経路の詳細については、これまでほとんど明らかにされていませんでした。
私たちは、リンパ球系細胞を未熟な段階から追跡・判別できるマウスを作製し、解析を行いました。その結果、これまでの報告通り、末梢の二次リンパ組織におけるリンパ球系DCは極めて少数でしたが、驚くべきことに、典型的なバリアー組織である肺や皮膚では、DCの大部分がリンパ球系であることが明らかになりました(図1-1)。
これらのリンパ球系DCは、従来の骨髄系DCと同等のDC関連遺伝子セットおよび細胞表面マーカーを発現し、形態的にも樹状突起を形成していました。さらに、リンパ球系DCは、リンパ球細胞に特徴的な遺伝子セットも弱く発現しており、これは骨髄系DCには見られない特徴でした。また、骨髄系DCおよびリンパ球系DCの単一細胞RNAシーケンス解析(用語15)を行なったところ、大部分のクラスターは両者に共通していたものの、リンパ球系DCのみに存在するクラスターが二つ同定されました。一つは未熟なリンパ球系DC、もう一つはcDC2(用語16)でした。実際に、末梢の二次リンパ組織では、①CD11c(DCマーカー)とCD19(B細胞マーカー)の両方を発現する細胞が存在すること、②それらは未熟なリンパ球系DCであり、成熟するにつれてCD19の発現が消失すること、③リンパ球系DCの分化経路には、pre-DC(用語17)を経由する経路(骨髄系DCと同様)と、pre-DCを経由しない経路の両方が存在することが明らかになりました(図2)。さらに、リンパ球系DCには興味深い機能も確認されました。前述のように、DCはナイーブT細胞(抗原に出会ったことのないT細胞)の活性化に不可欠な細胞です。骨髄系DCと比較したところ、抗原濃度が高い条件下では、リンパ球系DCは非常に優れたTh2細胞(用語18)誘導能を示しました(図1-2)。一方で、抗原濃度が低い条件下では、リンパ球系DCはナイーブT細胞の増殖誘導能が劣っていました(図1-3)。これらの結果から、リンパ球系DCは外来抗原と出会いやすいバリアー組織に偏在しており、低濃度の抗原に対しては不必要な免疫応答を抑止すること、逆に高濃度の抗原に対してはアレルギー反応を含む過剰なTh2免疫応答を誘導する能力を持つことが示唆されました。
これまで、DCは骨髄系の分化経路から供給されると考えられてきました。研究チームは、リンパ球系細胞を追跡・判別できるマウスを作製・解析することで、リンパ球系DCの詳細を明らかにしました。特に、バリアー組織に存在するDCの大部分がリンパ球系DCであること、そしてそれらのDCがバリアー組織の恒常性維持と過剰なアレルギー応答という、功罪両面の機能を持つ可能性を示したことは、極めて重要な意義を持ちます。今回の発見は、全ての血液細胞の中で、DCだけが骨髄系とリンパ球系という両方の分化経路を持つことを示しています。リンパ球系DCの存在は、DCの進化を考えるうえでも意義深いものです。DCの主たる役割はナイーブT細胞の活性化であり、獲得免疫系を担うT細胞と協調的に働いていることから、DCの機能や分化経路も、脊椎動物以降に出現した獲得免疫系とともに、協調的に進化してきた可能性が考えられます。今回の研究成果は、マウスを用いて得られたものであり、ヒトにおける研究は今後の課題です。ヒトでも同様のリンパ球系DCが同定され、同様の機能が確認されれば、当該DCあるいはその一部を標的としたアレルギー反応抑制技術の開発が加速することが期待されます。
用語説明