研究内容Research

2020 Sci Rep

Sci Rep. 2020 Sep 8;10(1):14639. doi: 10.1038/s41598-020-71633-3.

【ポイント】

  • 大腸の再生能力を担う大腸幹細胞は、陰窩(いんか)と呼ばれる場所に存在しています。
  • 大腸幹細胞は、大腸上皮の恒常性を維持し、障害を受けた大腸上皮を再生します。
  • 大腸幹細胞の機能不全は炎症性腸疾患の誘因になりますが、機能不全の原因となるストレス因子は不明でした。
  • 研究グループは、慢性的なインターフェロンの刺激で大腸幹細胞の数や働きが低下すること、転写因子IRF2が同刺激を適切に制御することによって機能的大腸幹細胞を維持していることを発見しました。
  • この研究成果は、機能的大腸幹細胞の維持、炎症性腸疾患の発症原因解明に新たなヒントを与えるものです。

【Points】

  • Colonic stem cells (CoSCs), which are responsible for the regenerative capacity of the colon, reside in an area called the "crypt".
  • CoSCs maintain colonic epithelial homeostasis and regenerate damaged colonic epithelium.
  • Dysfunction of CoSCs is a trigger for inflammatory bowel disease, but the stressors that cause dysfunction were unknown.
  • We found that chronic interferon (IFN) stimulation reduces the number and function of CoSCs and that the transcription factor IRF2 maintains functional CoSCs by appropriately regulating the IFN signals.
  • The results of this research provide new insights into the maintenance of functional CoSCs and the pathogenesis of inflammatory bowel disease.

【研究の背景】

I型インターフェロン(IFN)は、ウイルスや細菌感染の際、からだに抵抗性を付与する重要なサイトカインです。IFNは、何ら感染のない個体でも、微量ではあるものの常に産生されており、この微量なIFNの刺激が、いざ感染が起こったときに効率よく免疫応答を発動するために重要です。研究グループはこれまで、持続的なIFN刺激が造血幹細胞や小腸幹細胞の数の減少や機能低下を誘導すること、IFNシグナルを負に制御する転写因子IRF2が当該IFN刺激を適度に調節することによってそれら幹細胞の数や機能を維持していることを報告してきました(Nature Medicine 2009, Nature Cell Biology 2020)。

大腸上皮層は、腸内細菌や腸に感染する病原体に対するバリアーとして機能しているため、その恒常性は厳密に保たれる必要があります。大腸幹細胞(colonic stem cell, CoSC)は、大腸陰窩の底部に局在し、Lgr5を発現しています。CoSCは、定常状態における大腸上皮の恒常性維持と障害を受けた大腸上皮の再生に不可欠です。また、CoSCの維持にはWnt、Notchリガンド、EGF(epidermal growth factor)等のニッチ因子が重要です。しかしながら、CoSCの機能を損なう環境ストレスや同ストレスから幹細胞性を保護するシステムはよくわかっていませんでした。

【研究成果の概要】

研究グループは、IFNシグナルを負に制御する転写因子IRF2を腸上皮細胞(IEC)特異的に欠損する(Irf2ΔIEC)マウスを用いてCoSCを解析しました。その結果、コントロールマウスと比較して、 CoSCの数が著しく減少していること、CoSCの大腸上皮再生能の指標となるオルガノイド形成能が低下していることを見出しました(図1)。Irf2ΔIECマウスでは、CoSCからtransit-amplifying (TA)細胞への分化が亢進しており、これがCoSC数減少の原因であることが示唆されました。さらに、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を投与して大腸炎を誘導すると、Irf2ΔIECマウスでは、コントロールマウスと比較して、大腸上皮の再生がほとんど起こらず、大腸炎による体重減少が顕著で、マウスが死亡することが明らかになりました(図2、3)。また、野生型マウスに、IFN誘導剤であるpoly(I:C) を低濃度で長期投与すると、Irf2ΔIECマウスと類似のCoSCの機能低下が観察されました。以上のことから、慢性的なIFN刺激は、CoSCの自己複製能を低下させると同時にTA細胞への分化を促すこと、その結果としてCoSCの数が減少することが明らかになりました。また、転写因子IRF2は、IFNシグナルを適性に制御することによって 機能的CoSCを維持していることが明らかになりました。

【研究成果の意義】

幹細胞の中では、造血幹細胞におけるIFNシグナルの役割が最もよく研究されています。研究グループを含む複数の研究によって、I型IFNが造血幹細胞の増殖・分化を誘導すること、慢性的IFNシグナルが造血幹細胞を枯渇させること等が報告されています。 造血幹細胞に対するこれらIFNの作用は、感染症および自己免疫疾患における汎血球減少症の原因の1つと考えられています。これまでに研究グループは、持続的なIFNシグナルが造血幹細胞および小腸幹細胞の自己再生能力を低下させ、それぞれ造血前駆細胞および分泌前駆細胞への分化を促進することを報告しました(Nature Medicine 2009, Nature Cell Biology 2020)。一方、ウイルス感染時のIFNシグナルは、腎臓、小腸、唾液腺等の上皮細胞の再生を促進することで、感染細胞の排除と組織修復を効率的に進めることが示唆されます。他方、IFNシグナルが持続すると、細胞ストレスとして機能し、造血幹細胞、小腸幹細胞、そして大腸幹細胞の自己再生能力が低下します。研究グループの発見は、IFNがマウスおよびヒトの多様な組織幹細胞に同様の効果を及ぼす可能性があることを示唆しています。

I型IFNはウイルス性肝炎および多発性硬化症の治療に使用されてきた経緯があり、一部の患者がI型IFN治療中に潰瘍性大腸炎やセリアック病を患っていることから、慢性的なIFN治療は腸上皮の脆弱性を引き起こす可能性があります。研究グループの研究は、生涯にわたって機能的な大腸幹細胞を維持するための分子メカニズムに対する新しい知見を提供し、炎症性腸疾患の発症原因解明に貢献するものです。