Immunity. 2017 May 16;46(5):835-848.e4. doi: 10.1016/j.immuni.2017.04.019.
生後、単球は骨髄で作られ、がんの発生や炎症に伴い血液から当該組織に入り込み、マクロファージに分化して、それら疾患病態の進展・増悪化に関与します。がん組織では、腫瘍関連マクロファージ(TAM)として、がん細胞の増殖・浸潤・転移を直接促す因子を放出する一方、がん細胞を破壊するキラーT細胞をはじめとする免疫細胞の働きを抑制することによって、がん細胞監視機構を麻痺させます。TAMの存在とがんの悪性化には高い相関性が報告されています。炎症性腸疾患では、単球は腸粘膜で炎症惹起マクロファージになりTNFαを大量に産生して炎症病態を悪化・拡大させます。TNFα阻害剤は炎症性腸疾患治療薬として奏功しています。それら疾患以外にも、単球由来のマクロファージや破骨細胞は、肥満や動脈硬化、組織の繊維化、骨粗鬆症などへの積極的関与が報告されています(図)。
一方、ヒトにおいて、単球がどの様な細胞から作られるのか、単球のみを作る源になる細胞が存在するのかなど、多くの点が不明でした。当該細胞を起点とした単球分化経路が明らかになると、がんや難治性炎症疾患の治療戦略に道が拓けるため、その同定が急がれていました。
研究グループは、ヒト単球の分化経路を明らかにするため、臍帯血または骨髄細胞を用いてさまざまな表面分子のスクリーニングを行い、ヒト単球に高発現するCD64とCLEC12Aに着目しました。ヒト臍帯血や骨髄中には、顆粒球と単球への分化能を併せ持つGMP(granulocyte and monocyte progenitor)という前駆細胞が報告されていました。研究グループは、このGMPがCD64とCLEC12Aの発現レベルによって4つの亜集団に分かれることを見出しました。そして各分画の分化能を解析したところ、CLEC12AhiCD64hi分画は単球のみに、CLEC12AhiCD64int分画は単球と顆粒球に分化しました。これら2分画はリンパ球への分化能を完全に欠落していることも確認しました。残り2つの分画は雑多な前駆細胞の集合体でした。これらの結果から、CLEC12AhiCD64hi分画が単球のみを数多く産生する前駆細胞と結論付け、ヒト共通単球前駆細胞(human common monocyte progenitor, cMoP)と定義しました。これまでGMPと定義されていた前駆細胞は、CD64とCLEC12Aの発現パターンによって細分化できる複数の前駆細胞の集合体であることが判明し、その中の1つがヒト単球のみを多く産み出すcMoPであることを証明しました。
本研究成果において、私たちはヒト単球の源であるcMoPの同定に成功し、同細胞を起点としたヒト単球の分化経路を明らかにました。ヒトcMoPは多くの単球を作り出し、単球はがん組織で腫瘍関連マクロファージ(TAM)、炎症性腸疾患で炎症惹起マクロファージ、骨疾患で破骨細胞に各々分化することが予想されるため(図)、ヒトcMoPを標的とした新規治療法の開発が期待されます。