Immunity. 2013 May 23;38(5):943-57. doi: 10.1016/j.immuni.2013.04.006.
樹状細胞(DC)は1973年にラルフ・スタインマン博士により発見され、2011年、博士がその功績によりノーベル生理学・医学賞を受賞しました。現在では、DCは、感染など緊急時における免疫応答の発動のみならず、定常状態における免疫寛容注5)の誘導維持になくてはならない細胞として理解されています。血液細胞は造血幹細胞を源とし、DCも例外ではありませんが、DCのみに分化の方向性が運命決定された“DC前駆細胞”を発見することは、免疫細胞分化系譜への新たな発見という観点と同時に臨床応用という観点からの興味を包含する重要な研究といえます。本研究グループは、これまでにスイスの研究グループとの共同研究として、DC前駆細胞を同定し報告しましたが、本前駆細胞から分化するDCの大多数が従来型DCであったため、形質細胞様DCへの分化能に優れた「形質細胞様DC多産性」前駆細胞の存在が予測され、その細胞の同定が待たれていました。
これらの背景に基づき、約5年の歳月をかけて、マウス骨髄細胞を用いて以前報告したDC前駆細胞と近縁の分画を詳しく調べた結果、形質細胞様DCへの分化能に優れた「形質細胞様DC多産性」前駆細胞の同定に世界で初めて成功しました。新たに発見した「形質細胞様DC多産性」前駆細胞は、以前報告されたものに比べ、形質細胞様DCを7-8倍多く作り出すことができました(図1)。また、形質細胞様DCの分化に必須の転写因子E2-2注6)を非常に高く発現していました。また、DCのみを作り、他の血球細胞をまったく作らないため、以前報告したDC前駆細胞と今回のDC前駆細胞をまとめて「共通DC前駆細胞」と定義しました。さらに、共通DC前駆細胞が、多能性前駆細胞から直接分化する経路の存在も明らかにしました。本研究成果は、DC分化系譜を書き換え、免疫学・血液学分野に大きなインパクトを与えるものです。
図1.新たな樹状細胞前駆細胞の発見
新たに発見したDC前駆細胞(「形質細胞様DC多産性」)は従来のDC前駆細胞(「従来型DC多産性」)よりも優れた形質細胞様DCへの分化能を持っていた。
現在、感染症やがんに対するワクチンの標的細胞としてDCの重要性がクローズアップされています。これとは対照的に、なんら感染のない定常状態では、DCはむしろ免疫寛容の誘導・維持を介して自己免疫病を抑制していることも明らかになってきています。1個から500-1,000個のDCを生み出す、かつ他の血液細胞を生み出さないDC前駆細胞の発見は、感染症・がん・自己免疫病に対する、同細胞を用いた新たな予防・治療技術の開発が期待できるものです。