研究内容Research

2023 J Exp Med

J Exp Med. 2023 Apr 3;220(4):e20221221. doi: 10.1084/jem.20221221.

【ポイント】

  • 通常、骨髄では骨髄系細胞とリンパ系細胞がバランスよく作られていますが、感染初期には骨髄系細胞を増産して全身に供給する必要があります(緊急時骨髄系細胞増産)。
  • 緊急時骨髄系細胞増産におけるリンパ系細胞の役割は不明でした。
  • 研究グループは、感染初期にユニークな調節性B細胞が出現することを発見しました。
  • この調節性B細胞は骨髄系細胞に特徴的な複数の分子を発現しており、IL-10を産生して造血幹前駆細胞からの骨髄系細胞の増産に寄与していました。
  • この研究成果は、脊椎動物以降に進化獲得した獲得免疫系が自然免疫系前駆細胞に作用することによって感染防御力が強化されることを示しており、これまで知られていた成熟免疫細胞同士の相互作用とは異なる新たな視点と進化学的意義を提示するものです。

【Points】

  • Normally, the bone marrow produces a balance of myeloid and lymphoid cells, but in the early stages of infection, myeloid cells need to be boosted to supply the entire body (emergency myelopoiesis).
  • The role of lymphoid cells in emergency myeloid cell production was unknown.
  • We found that unique regulatory B cells emerge early in the infection.
  • These regulatory B cells expressed several molecules characteristic of myeloid cells and contributed to emergency myelopoiesis from hematopoietic stem progenitors by producing IL-10.
  • The findings present a new perspective and evolutionary significance that is different from the previously known interactions between mature immune cells.

【研究の背景】

免疫細胞はその大半が骨髄の造血幹細胞を起源とし、分化経路や機能の違いから「骨髄系」と「リンパ系」の細胞に大別されます。骨髄系細胞は好中球や単球、マクロファージ、樹状細胞など自然免疫系を司る細胞であるのに対し、リンパ系細胞に属するT細胞やB細胞は獲得免疫系を担っています。全身的な感染症では、体内に侵入した病原体を速やかに排除するために骨髄系細胞の産生が著しく亢進し自然免疫を増強します。これは緊急時骨髄系細胞増産(emergency myelopoiesis)と呼ばれる造血応答であり、様々な炎症性サイトカインがその誘導に関与していることが知られていました。一方、緊急時骨髄系細胞増産ではリンパ系細胞の産生が代償的に著しく減少してしまうため、この造血応答におけるリンパ系細胞の役割はまったく注目されていませんでした。

【研究成果の概要】

研究グループは、LPS投与あるいは盲腸結紮穿孔モデルを用いて緊急時骨髄系細胞増産を誘導したマウスの骨髄において、リンパ系細胞であるB細胞のなかに、骨髄系細胞に特徴的な分子や遺伝子を発現するユニークな細胞集団が出現することを見出し、この細胞をミエロイド様B細胞(M-B細胞)と名付けました(図1)。M-B細胞は調節性B細胞の新しい亜集団であり、感染症によって惹起された炎症を引き金として、主にB細胞系前駆細胞から産生されることが分かりました。興味深いことに、M-B細胞は高いIL-10産生能を有している一方、M-B細胞以外のB細胞はIL-10産生能を示しませんでした。そこで、緊急時骨髄系細胞増産において、M-B細胞の産生するIL-10がどのような役割を担っているかB細胞特異的IL-10欠損マウスを用いて検証したところ、同マウスでは緊急時骨髄系細胞増産が減弱することが分かりました。これはM-B細胞の産生するIL-10が感染時の骨髄系細胞の増産を促進することを示しています(図2)。さらに、盲腸結紮穿孔モデルではこの骨髄系細胞の増産が病原体の排除を促進することを確認しました。

【研究成果の意義】

本研究では、感染初期の骨髄に出現する特殊なBリンパ球を新たに同定し、骨髄系細胞に特徴的なマーカーや遺伝子を発現することからM-B細胞と定義しました。また、M-B細胞がIL-10の産生を介して造血前駆細胞に作用することで骨髄系細胞産生を促進するという、新たな自然免疫系‐獲得免疫系の相互作用を明らかにしました。一般的に炎症抑制性サイトカインとして知られているIL-10が緊急時骨髄系細胞増産の誘導因子として機能するという、IL-10の新たな生理学的役割を示す結果です。
自然免疫系はすべての多細胞生物が有していますが、獲得免疫系は脊椎動物以降(約5億年前)に進化獲得されたものです。成熟した自然免疫細胞と成熟した獲得免疫細胞の相互作用はよく知られています。本研究成果は、自然免疫系細胞の動員が求められる感染初期において、獲得免疫細胞(M-B細胞)が骨髄からの自然免疫細胞の供給力を強化するという、これまでの概念とはまったく違った視点を提供するものです。また、獲得免疫系が脊椎動物において抗原特異的な免疫応答や免疫記憶を実現しただけでなく、免疫細胞の供給源である骨髄に働きかけて時期適切に免疫力を強化するという本研究成果は、獲得免疫系の進化的意義を考察する上でも重要な知見であると言えます。