松島綱治先生におかれては、東京大学医学部での長年にわたる教授職の任期を終えご退官を迎えられたこと、多くの研究者育成に尽力されたこと、今なお高い研究アクティビティを維持・継続しておられることに心から敬意を表したい。
先生の輝かしい業績の数々は、私如きが述べるまでもなく、多くの先生が他稿で必ずや紹介するはずで、ここでは割愛させていただく。先生は、生命現象や疾患への深い洞察力はもとより、社会へ還元する意識を強く持たれている研究者だと私は思う。私を含むほとんどの研究者が基礎研究だけでも覚束ず、社会還元に至っては出口の光すら見えない中で、松島先生の基礎研究と社会還元のバランス・立ち位置は絶妙で、このバランス感覚は、ケモカインのプロトタイプCXCL8とCCL2を米国で同定された当初から一貫しておられるように思う。松島研のホームページでも“研究のゴールは、普遍的生命現象の根幹に関わる機序を解明する、もしくは疾患予防・病態改善・治療につながる重要な標的分子を提供することと、それに基づくワクチン・抗炎症剤・免疫制御剤・がん治療薬の開発である”と述べておられるが、言葉を選ばずに言わせて頂くなら、松島先生は、生命現象の根幹解明(ケモカインプロトタイプの同定)と創薬開発の両方を達成した“バケモノ”である。
バケモノの所以は他にもある。松島先生は多くの国内外学会や研究会で会長を務めてこられた。昨年の国際サイトカイン・インターフェロン学会(ICIS2017)や2009年の国際炎症学会(WCI2009)でも会長を務められ、大成功裏に終わったのは記憶に新しい。マクロファージ分子細胞生物学研究会(MMCB)も、松島先生が30代の1991年に金沢で立ち上げている。私はこのような研究者を知らない。以来今日まで25年間、毎年日本各地でMMCBが開催されている。昨今免疫学会でも英語化が推進されているが、MMCBでは当初から国際シンポジウム形式(英語化)を取り入れていた。学会活動の重要性は認識していても、自ら積極的に学会や研究会を立ち上げ、会長を引き受ける研究者は少ない(というか、私などは余力がない)。一昨年松島先生からMMCBを引き継がせて頂いたが、私の力だけでは心もとない(松島先生、引き続きご支援を!)。松島先生は、研究を離れてもバケモノの片鱗を見せる。私もワイン愛好者の一人だが足元にも及ばない。先生は専門家も舌を巻くワイン好き特にブルゴーニュ通で、赤だけでなく白、シャンパン、デザートワインに関する品種、醸造法、温度管理、抜栓のタイミング、料理とのマリアージュなどに関する知識と万能の五感を持っている。現地ワイナリーまで訪れる。ゴルフや山登りも本格的で、基礎研究だけで疲れ果ててしまう凡人には“バケモノ”への道は程遠い。
免疫学は成熟期を迎えており、松島先生の退官記念シンポジウムでは「炎症・免疫研究の未来を語る」と題したパネルディスカッションが行われた。免疫学の最大の特徴の1つは、免疫細胞がフットワーク良く目的地に移動するケモカインに依存した現象である。また、マクロファージの機能は免疫学をはるかに超えており新たな隆盛の気運である。ケモカイン研究に長年携わり、MMCBを四半世紀も先導されてきた松島先生は、やはり時代を先取りするバケモノである。
松島綱治先生退官記念誌より転載
MMCB2016懇親会〜左から、小川、松島、有田、樗木、七田(敬称略)