エッセイEssay

敢えて10年先を考える

2006年度内藤記念科学奨励金・研究助成に採択された時、私は秋田大学でラボを立ち上げて4年目、やっと1つ論文が出た頃だった。それから10年後の現在、東京医科歯科大学でラボを持って7年目になる。これから10年後はWho knows? 未来志向で目標を設定することは必要不可欠であろう。ズバリ、10年で1つ良い仕事を!大学は生き残りをかけて多くの目標を掲げ走り続けている。研究者を取り巻く環境も厳しさを増し、出口志向の研究を求められる機会も多い。大学で生命科学研究を行う基礎研究者は、個々人の揺るぎないidentity (立ち位置)を決めておかないと、優先順位付けをきちんとしておかないと、研究の将来ビジョンをイメージしておかないと、日々目先の仕事をこなすことに追われ、気付いてみたら研究生活が終わっていたなんてことになりかねない。良い仕事とは、敢えて昨今の施策を顧みずに言えば、究極的には自分が100%満足できる仕事だと思う。Serendipityという言葉が好んで使われるくらいだから、狙い通りにことが運ぶことは、多くの研究者にとって極めて稀であろう。過去に満足することなく、10年後の目標を適度に設定して、大胆かつ諦めずに日々継続することが、可能性を高めてくれる唯一つの方法なのかもしれない。言うは易し、、である。

内藤財団時報告より転載