エッセイEssay

研究者としての進化、ヒトとしての進化?
〜留学時のボス、Robの退官挨拶から得たヒント〜

2018年9月12日、留学時の恩師Rob MacDonaldの退官シンポジウムがスイス・ローザンヌであった。世界各地から約150名が駆けつけた(アジア人は私一人)。ここでは今回が3回目の発表で、前回は冒頭でラファエル・ナダルの写真を出して大失敗したため(他のエッセイ参照)、今回は周到な準備をした。スイス国民に敬愛されるスーパースター、ロジャー・フェデラーの品格に満ちた写真を厳選、その横に時間差でRobの写真を出す仕掛けだ(写真参照)。これがハマった、満場拍手喝采だった!晩の懇親会の時「あのスライドを送ってくれ」とRobから言われた。

私の発表はさておき、シンポジウムの後、Robが最後の挨拶で、研究者として大事にしてきた2つのキーワードを述べた。1つは「多様性」を受け入れること。彼は約40年間もPI研究者であったが、その間、文化や言語背景の異なる若手研究者を20数カ国から受け入れた。国際性と言い換えることができるかもしれない。もう1つは「適応力」。慣れ親しんだ環境とは異なる環境でも皆と打ち解け、異文化を楽しみ、研究は元より人生を相談できる友を作る人間力。当時は、フムフムと拝聴して、記憶に留め帰国した。最近、マクロファージという免疫細胞が「個体発生は系統発生をくりかえす」を見事に再現することを知り、さらに本やテレビで進化にふれる機会が偶然重なり、私の記憶にあったRobの言葉とリンクした!ダーウィンは「進化の過程で生き残るのは、いちばん強い者でも、いちばん頭がよい者でもなく、いちばん適応力がある者である」とした。多様性のある集団の中で、環境の変化に適応できる者が生き残る。個人が、ヒトとして生涯を通じて進化し続けるために(PI研究者としては退官まで)、常にオープンマインドでいることができないだろうか。それまでの個人の拙い経験や人生観を覆す価値観を目の前にした時、それから目を逸らすのではなく、それを取り入れる努力をする生き方=進化。そのせめぎ合いの中で過ごしていると、少しマシな研究者、ヒトにならないものだろうか。自問自答。。。